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平成13年10月11日に塩竈第一中学校で「地域の文化に学ぶ」総合学習の一環として「漁師さんからマグロについての講義を聴く」授業が行われました。
この文書は、そのとき講師にお招きした、塩釜港を根拠港としてまぐろ延縄漁をしている、高知県室戸市第38美阿丸の竹村正人漁労長兼船頭さんのお話をまとめたものです。
投縄に4時間、揚縄に12時間
私の船は先程紹介していただいたように、19トン型の鮪延縄漁船、漁法としましてはここに簡単な絵を貼っていますけど、縄をずーっとこう入れましてね、そうですね約80キロメートルくらいの長さでこう縄をずーっと仕掛けていきます。
それがだいたい4時間から4時間半くらい、この作業を投縄作業といいます。
それで針数ですけどね、写真には適当にしか書いていないですけども約2,000本から2,200本、餌としましてはイカとかサンマ、ムロアジ、イワシそういうやつを餌につけています。ここにね書いてありますけども、幹縄、枝縄とかありますけどもここに枝縄の見本を持ってきています。
「延縄漁業図」
このようなテグス縄を使っています。昔は三本に編んだ縄を使っていたんですけれども、今はテグスで、これが枝縄、これをだいたい2,000本から2,200本くらいで、これを揚げるのに約12時間かかります。
マグロが集まる絶好の漁場に全国の船がやってくる
この作業を毎日繰り返し行っています。高知の室戸を母港にしていますけども、だいたい7月から12月の末まで塩釜港を基地にしまして、三陸沖を漁場にして、主にメバチマグロ、たまにビンナガマグロ、キハダマグロ、カジキマグロ等を漁獲しています。
みなさんだいたい魚の名前はわかります?
それで、どうして高知の遠いところから、わざわざこんな遠いところまで来るのか疑問もあると思いますけど、三陸沖っていうのは知ってる方も多いと思いますけれど、黒潮と親潮とがぶつかるところで、動物性プランクトンが良く繁殖していて、それを餌にする小魚が集まり、それをめがけてマグロなんかが集まってくる絶好の漁場なんですよ。
高知だけではなく、宮崎、大分など全国からたくさんの船がこのマグロを求めてやってきております。
ここに漁場を決めるための目安として、水帯図、水温図ねそういうのを見ましてだいたい黒潮と本潮のぶつかるところ、そういうポイントを見つける目安にしております。
まあ色々な技術が発達して、衛星写真とかで水温図とか気象データや天候も台風とかきたとか知らなければいけないので、こういう衛星から全部情報を仕入れまして利用しています。
マグロとひとえに言いますけど、色々な種類の魚がいまして、今の時期はメバチマグロ、1月から4、5月くらいまでは本マグロ、それが銚子沖とか那智の勝浦沖、四国沖にかけて漁場は徐々に徐々に南に下がって、5月6月頃になれば沖縄方面まで魚を追っかけて一年中漁場を転々としております。
漁法に関してはかつて色々船によって違ったやり方もありますが、基本的には幹縄に枝縄をつけて魚をとります。
たくさんの釣数、仕掛けをしても一匹も釣れない時もあればたくさん獲れる時もあるということで、漁師というのは一種のギャンブラーですよね。そういったことで、すごく縁起を担いだりもします。
例えば女性を船に乗せたりしない、13日の金曜日は避けるとかしてる船頭も多いといいます。
魚の獲り方につきましては、こういう小さい仕掛けに200キロくらいの魚がかかってそれを長時間かけて30分とか1時間とか格闘して釣るわけです。
今日は本当はビデオなんかを鑑賞してもらいながらであれば、理解してもらえたと思うんですけれども、急にこのような話があったものですから間に合いませんでした。
また後ほど先生の方にお渡ししておきますから、みなさんでご覧になってください。
魚を獲るときに100キロから150キロくらいの魚が暴れてなかなか獲れないようなときに、イサイといいますけどこういうのを魚の頭なんかに刺したりしますけどね。こういう色々な漁具なんかも使って、いかに効率良く獲るかを考えています。
魚の鮮度を保つため、海水と清水を半分くらいに調合し凍る直前の温度に冷凍機で調節
このような遠洋マグロ船ね、凍結船、魚をマイナス60℃ないし70℃くらいに凍結して、1航海1年ないし1年半くらいかけて操業して帰ってくるみたいです。
私たちの船は生船といって、凍結をしません。1航海約20日ないし1カ月くらい、ほとんど塩竈とか近くの港に入ってますけど、どうして凍結しないかというと、やはり魚の鮮度をいかに良く持って帰ってきて、皆さんにおいしいマグロを食べてもらうために海水と清水を半分くらいに調合しまして、海水ばかりでは駄目ですし、清水ばかりでも駄目、清水と海水を半分くらいに混ぜまして、それを凍る直前の温度くらいに冷凍機で調節して、鮮度の良い状態で持ってきております。
本当は魚の実物があってそれを解体して見せてあげられれば良かったんですけども、それはまた次回、時間のあるときをつくっていただいて、実際マグロを解体する風景なんかを見ていただきたいと思います。
延縄漁船の塩竈を出航して、1航海にねだいたい私を含めて乗組員が8人乗っています。
そのうち3名がインドネシアからの高校を卒業して、研修生として日本の漁業技術を学ぶために、今私の船に3名のインドネシア人が乗っております。
仕事自体は、きつくて・危険で・汚くて、3Kというやつですね、そういう職業ですけど、塩竈にね、みなさん生まれ育って、これからもまた住んでいかれる方も多いと思いますけど、少しでも私の話を聴いて、将来漁業に関心を持っていただけたら光栄だと思います。
(菅原先生)
これから質問コーナーに入っていきたいと思いますけど、どんどん質問してください。
→(竹村船頭)
私の船は、以前、7年程前に海難事故に遭いまして、去年また新たに船を建造しました。
今19トン船一隻造るのにですね、1億6千万から1億7千万かかるんですよ。年間に1億から1億2千万、少なくとも水揚しないと経営が難しい状態です。
まあ1航海1カ月に1千万円ちょっとくらいの水揚を目標にがんばっております。
→(竹村船頭)
コック長といって食事をつくってくれる人が1人いまして、まあ簡単な冷凍食品が主に多いですけどね、1日2回ないし3回食事はとっております。
飲み水とかシャワーを浴びたり洗濯したり、そういうのは造水機というのを使って、これは海水から清水に変える機械ですが、そういうのを使いまして清水の方は十分不自由しない程度の量は確保しています。
→(竹村船頭)
以前は7月末から12月の暮れにかけて一番とれていたんですけど、今年はちょっと出足が悪くて、まあこの航海はなんとか目標達成くらいの漁獲はあったんですけど、年々シャチが多くなりまして、釣れた魚を食べてしまうんですよ。
シャチっていう魚は人間より頭のいい魚でね、釣針のついている頭だけを残して、胴体から尾まで全部食べてしまうんですよ。
そういうシャチが年々増えてきているもので、せっかく釣にかかっている魚なんかも食べられるとねほとんど全滅、全部シャチに食べられてしまう。
そういう状況もあるんで、年々厳しくはなってきています。
→(竹村船頭)
主にイカ、サンマ、ムロアジ、イワシそういうのを使っています。
→(竹村船頭)
小さいものはしますね。大きいやつはやっぱり商品ですから、ちょっとね、まあサメなんかに食べられて傷ついたものなんかは食べたりしますけどね。
20キロくらいまでのものだったら、毎日食堂で食べたりしますけどね。
70キロとか100キロくらいのものになれば、商品価値があるのであまり食べてませんけども。
→(竹村船頭)
滅多にないですね。たまにありますけど。そういうときには危ないから、枝縄を切って逃がしますけどもね。例えばマグロが釣針にかかってますよね。かかってたらね、釣のかかってる所だけを残して、あとは頭を残して全部きれいに食べていく。
もっと頭のいいシャチなんかは、マグロが釣針を飲み込んで胃袋に引っかかってることなんかあるでしょう。そういう場合は、胃袋だけを残して食べていくんですよ。だから引っぱってみたら胃袋しか上がらなかったときもあるんですよ。どういうふうに食べているかは見たことがないんですけども、人間以上に上手に食べていくんですよ。
→(竹村船頭)
そうですね。クロマグロ(本マグロ)というのは、大きいやつになれば300キロとか、まあ南のほうでは470キロというマグロが上がっている記録がありますけどね。200キロ、300キロくらい。
メバチマグロになりますと、大きいやつだと120、130キロ、中には140キロというものもありますけどね。まあ100キロくらいになればね、1航海に3本から5本くらい、平均して60キロのメバチマグロが主体ですよね。
60キロくらいといっても見当がつかないと思いますけど、頭の先からしっぽまでで、だいたい100キロくらいになればね、1m60cmも1m70cmも、まあ皆さんの身長くらいある大きさになります。
→(竹村船頭)
ありますよ。だから、1回1回点検は欠かさずやってます。マグロだけじゃなくてサメなんかもかかってくるんで、サメなんかでそのまま傷がついてるのなんかをそのまま使うと、せっかくかかった獲物を逃がしてしまうんで、1本1本確認して点検して獲物を逃がさないようにしています。
まあ皆さんもね、釣の好きな人ならわかると思いますけど、道具はね小さいほど獲物がかかりやすいですけど、あまり小さすぎると獲物を逃がしてしまうという、かえって大きすぎてもなかなかつけにくくなるし、そういう微妙な大きさを選択するのもありますけどね。
→(竹村船頭)
だいたいですね。投縄っていうと縄をずーっと入れていく作業ですね。投縄はですね、だいたい4時から4時半、夜明け前からですね。4時間から4時間30分くらいかけます。
それから少し食事をとって少し休憩します。獲物がかかるように時間をおいて、12時半くらいから今度は上縄作業にかかりまして、これが約12時間くらい。ですから時間を見てもらったらわかるように、睡眠時間というのはほとんど限られているんですよね。
食事をしたりシャワーを浴びたり洗濯したり、そういうのがあるものですから睡眠時間というのは本当に1日2回に分けて5・6時間くらい寝れば充分ですね。
さすがにハードな生活ですけどね。これで時間がかかるときにはですね、もう朝まで、12時間ではすまずね20時間もかかります。
まあ80kmくらい縄を入れますけど、潮の流れが入組んだ所になりますと、縄が潮の流れで途中で切断することがあるんですよ。
切断したときなんかは、また1時間とかね2時間とか、また次の縄まで走っていっておさえて上縄を再開しなければいけないので、そういうときは時間が結構かかります。
→(竹村船頭)
いい質問ですね。以前は万丈(ばんじょう)、かごみたいなやつですね、ああいうかごに何本かずつ幹縄を入れて、それをずーっと手で出してやってたんですけど、今はね釣のリールがあるでしょ、リールのちょっと大きいやつ、あれにね約100本から120本ずつ幹縄を巻いてですね、あと機械で1本ずつとばして船で走りながらずーっと出していきますから、もつれっていうのはあまりないですね。
魚を釣ったとき、魚がかかってね、魚も命が惜しいから暴れまわるでしょう。そうするとやっぱりからんできますよね。
道具がからんでしまうので、船に上げてさばいて修理しますけど、もつれがくるとまあ私たちは獲物が来たと思いますけどね。
もつれたときは何か獲物が来たなあと、いつも胸をどきどきさせているんですけどね。
時には潮の流れで縄が交錯したりとか、まあ全国各地からマグロ漁船が来て、そうですね今は300隻ないし400隻くらい漁場を狙って操業しているんで、他の船とからんだりするときはありますけど、今は無線連絡でからまないように間隔をとって、上手にみんなが互いに操業できるように連絡をとりあってやっていますけど。
だから投縄作業で、もつれっていうのはわずかなもつれです。
→(竹村船頭)
作業は毎日1回ですね。どのくらいとれるかといいますと、この時期ですと40キロ以上をメバチマグロ、塩竈魚市場によって分け方はありますけども、20キロから40キロの獲物をダルマというんですよ。
そういうものもひっくるめて、主に狙っているのはメバチマグロで、1日3匹とれれば採算が合うかなという、それにダルマが5・6匹とか、まあとれるときには10匹とか20匹とかとれたりしますけどね。
それからビンチョウマグロ、1日多くとれるときには200匹くらいとかとれますけどね。
今はやっぱりね高価な魚、メバチマグロ主体に操業しているんで3匹ないし4匹とれればいいですね。
だから1日ね何もとれないでサメばかりとかね、サメなんかも1日に200匹も300匹もかかってくるときがあるんですよ。
そういうやつは皆さんも食べてるかも分からないですが、ふかひれスープの材料なりますが、それはもう小遣いにするためにサメもとってるんですけどね。
→(竹村船頭)
そうですね。恥ずかしい話ですけど、うちの船員がサメに足をかまれまして大けがしましたけど。海の上なので病院も行けないので私が応急処置をしたこともあります。
サメは胴体を切っても頭だけでも噛み付いてきますんで、十分な注意をはらわないと大けがするんですよね。
→(竹村船頭)
そうですね。釣の数は2,000から2,200本、エサもですね10キロで90匹くらい入っているエサを使っています。
約250キロくらいで、匹数でいえば2,000から2,200匹くらい。
このエサは冷凍した箱に凍結して10キロずつ入っていて、魚の方は約-0.5℃から-0.7℃の凍るか凍らないかの微妙な温度で持ってくるようにしています。
→(竹村船頭)
私も以前気仙沼の方にも水揚に入ったんですけど、極端にいいますと三陸沖の漁場から一番近いというのが気仙沼、塩竈です。あと一度入ると、塩竈の方々に親切にしていただくと情が移りまして、どうしても入らざるを得ないような状況になりますね。
まあ第2の母港のような感じで、塩竈に入るようになっていますけど。
→(竹村船頭)
各船によって年間の水揚金額が違いますので、多少変化はありますけど、まあ年間500万から700万くらいですね。
去年うちは8月から就労して3月一杯まで、7・8カ月で約9,000万程度売上があったんで、甲板長クラスで700万くらい。
皆さんもわかってるかと思いますが、船長とか漁労長、機関長とか色々な役職の方がいますけど、それによって給料のわたりが違ってきます。
今、インドネシアの研修生を乗せている話もしたんですけど、インドネシアの船員さんは高校を卒業して研修生として来ているんですけど、インドネシアの給料というのは1カ月4万円なんですよ。
それでもインドネシアに帰れば、普通のサラリーマンの4カ月分とか5カ月分、研修生として3年間日本にいれるんですけど、2年目からは7万くらいの給料になります。7万というとだいたい半年以上の給料になりますんで、3年間日本で働いてインドネシアに帰ると、家が一軒くらい建つらしいんですけどね。
それを思うと日本の船員なんかは、3年間で家が一軒建つなんていうのはなかなかないと思うんですけど。
→(竹村船頭)
室戸、母港を7月の末くらいに出港しまして、船で室戸に帰るのは来年の3月くらい。
その間ずーっと塩竈とか銚子沖とかにいてがんばっています。奥さんとか子どもとかにたまに飛行機で会いにいったりとかしますけどね。
→(竹村船頭)
自分の漁労長としての経験が浅いもので、水帯図を参考にして自分で予測を立てて、そのポイントで漁をして大量に魚がとれたときがなんとも言えない気持ちですね。