勘定板 昔はといいますと、今ほど立派なトイレはございません。 川だとか、穴だとかに、用を足しておりました。 とある海沿いの地方に行きますと、 海岸に杭がありまして、その先に縄が結わえ付けてありまして、その縄が、海までずーっと繋がっている。 で、この縄を引っ張って来ますと言うと、先に板切れがくっついております。この板切れに用を足しまして、「バカヤローッ!」かなんか言いながら、海に投げるわけですね。 いわゆる、自然浄化方式による水洗トイレでございます。 このお話のキーポイントは、この方式のトイレを、この地方では、「勘定場」と言っておりました。で、この便器つまり板切れを「勘定板」、用を足すことを、「勘定をぶつ」と申しておりました。 「トイレで、便器に、用を足す」ということを、「勘定場で勘定板に勘定をぶつ」と言っていたことを、お忘れなく。 こういった地方の方々が、江戸見物に出かけたときのお話でございます。 「おう、どうした?えらく顔色がすぐれねぇ様だが?」 「いやおら、さっきから勘定がぶちでくて、ぶじでくて、しっかたねえだ。」 「あぁ、そうかもしんねぇなぁ。江戸見物に来てがら、1週間になるが、一辺も勘定ぶってねぇだからなぁ。んだ。江戸見物さ来て勘定ぶでねくて、おっ死んだっつーんでは洒落にもならねぇ。勘定ぶだしてもらうべぇ。(部屋の外に向って大声で)番頭さん。番頭さーん。」 「へい、お呼びでございますか?」 「いや、おらはなんでもねえだども、おらの相棒がなあ、勘定ぶじでくて、ぶじでくてしかたねえだよ。」 「え?でも、お客様は2週間のご滞在と伺っておりましたが?」 「ああ、んだんだ。あと1週間世話になるで、よろしく頼むだよ。」 「でしたら、お勘定は、お帰りの際にまとめてお願いいたします。」 「え?帰りにまとめて?そらこまったなぁ。おらほでは、毎日勘定ぶつのに、2週間まとめてとは困った。」 「あら、地元では毎日お勘定を!それはそれは、お堅くていらっしゃる。」 「いや、堅てぇか軟らけぇがは、してみねげ分からねぇ。」 「(相棒の方を向いて)おめぇ、あと一週間我慢できるだか?」 「いや、もう無理だ。もう我慢ならねえ、もうでちまう。」 「と、言うわけなんだ、勘上ぶたせてもらえねえだか?」 「では、本日までの分につきましてお勘定をさせていただきましょう。」 「で、勘定場はどこだ?」 「只今、お帳場の方が大変込み合っておりまして、できましたら、こちらのお部屋でお願いします。」 「この部屋で勘定ぶつだか?」 「その、床の間の前などは、どうでしょう」 「いや、混んでるんだら、かまわねぇだども・・・。あ、あと、勘定ぶつのに、勘定板がねえことには勘定がぶてねえ。勘定板を持ってきてけろや。」 「はい?・・・。わかりました。勘定板でございますね。少々お待ち下さい。」 この番頭さん、気の利く番頭さんでして、勘定板と聞いて初めはなんだか判りませんでしたが、勘定をする板だから“そろばん”だろうと思って、持ってまいります。 「どうもお待たせいたしました。こちらでございます。」 当時のソロバンは、今の枠に入ったものではなく、箱に入ったもので、逆さにすると、まるで板の様に見えます。その“そろばん”を、表を向けて出したのでは失礼だというので、伏せて差し出します。 「じゃあ、勘定ぶたせてもらうでな。終ったら呼ぶだで、番頭さんは下でまっててけろや。」 床の間の前じゃああんまりなので、廊下にやってきます。 さあ、勘定をぶとう、ということで、“ソロバン”を下においてに跨ったとたん、“ソロバンの玉”が転がってツーッ。 「さすが江戸の勘定板、車仕掛けになってる。」 このお話、もともと、落語のお噺でございます。 この噺をしましたら、地元に方に、「浦戸でも大昔はそんなトイレだったよ。」と伺いました。 ネタが無いのでとりあえず、載せてみました。
昔はといいますと、今ほど立派なトイレはございません。 川だとか、穴だとかに、用を足しておりました。 とある海沿いの地方に行きますと、 海岸に杭がありまして、その先に縄が結わえ付けてありまして、その縄が、海までずーっと繋がっている。 で、この縄を引っ張って来ますと言うと、先に板切れがくっついております。この板切れに用を足しまして、「バカヤローッ!」かなんか言いながら、海に投げるわけですね。 いわゆる、自然浄化方式による水洗トイレでございます。 このお話のキーポイントは、この方式のトイレを、この地方では、「勘定場」と言っておりました。で、この便器つまり板切れを「勘定板」、用を足すことを、「勘定をぶつ」と申しておりました。 「トイレで、便器に、用を足す」ということを、「勘定場で勘定板に勘定をぶつ」と言っていたことを、お忘れなく。 こういった地方の方々が、江戸見物に出かけたときのお話でございます。 「おう、どうした?えらく顔色がすぐれねぇ様だが?」 「いやおら、さっきから勘定がぶちでくて、ぶじでくて、しっかたねえだ。」 「あぁ、そうかもしんねぇなぁ。江戸見物に来てがら、1週間になるが、一辺も勘定ぶってねぇだからなぁ。んだ。江戸見物さ来て勘定ぶでねくて、おっ死んだっつーんでは洒落にもならねぇ。勘定ぶだしてもらうべぇ。(部屋の外に向って大声で)番頭さん。番頭さーん。」 「へい、お呼びでございますか?」 「いや、おらはなんでもねえだども、おらの相棒がなあ、勘定ぶじでくて、ぶじでくてしかたねえだよ。」 「え?でも、お客様は2週間のご滞在と伺っておりましたが?」 「ああ、んだんだ。あと1週間世話になるで、よろしく頼むだよ。」 「でしたら、お勘定は、お帰りの際にまとめてお願いいたします。」 「え?帰りにまとめて?そらこまったなぁ。おらほでは、毎日勘定ぶつのに、2週間まとめてとは困った。」 「あら、地元では毎日お勘定を!それはそれは、お堅くていらっしゃる。」 「いや、堅てぇか軟らけぇがは、してみねげ分からねぇ。」 「(相棒の方を向いて)おめぇ、あと一週間我慢できるだか?」 「いや、もう無理だ。もう我慢ならねえ、もうでちまう。」 「と、言うわけなんだ、勘上ぶたせてもらえねえだか?」 「では、本日までの分につきましてお勘定をさせていただきましょう。」 「で、勘定場はどこだ?」 「只今、お帳場の方が大変込み合っておりまして、できましたら、こちらのお部屋でお願いします。」 「この部屋で勘定ぶつだか?」 「その、床の間の前などは、どうでしょう」 「いや、混んでるんだら、かまわねぇだども・・・。あ、あと、勘定ぶつのに、勘定板がねえことには勘定がぶてねえ。勘定板を持ってきてけろや。」 「はい?・・・。わかりました。勘定板でございますね。少々お待ち下さい。」 この番頭さん、気の利く番頭さんでして、勘定板と聞いて初めはなんだか判りませんでしたが、勘定をする板だから“そろばん”だろうと思って、持ってまいります。 「どうもお待たせいたしました。こちらでございます。」 当時のソロバンは、今の枠に入ったものではなく、箱に入ったもので、逆さにすると、まるで板の様に見えます。その“そろばん”を、表を向けて出したのでは失礼だというので、伏せて差し出します。 「じゃあ、勘定ぶたせてもらうでな。終ったら呼ぶだで、番頭さんは下でまっててけろや。」 床の間の前じゃああんまりなので、廊下にやってきます。 さあ、勘定をぶとう、ということで、“ソロバン”を下においてに跨ったとたん、“ソロバンの玉”が転がってツーッ。 「さすが江戸の勘定板、車仕掛けになってる。」
このお話、もともと、落語のお噺でございます。 この噺をしましたら、地元に方に、「浦戸でも大昔はそんなトイレだったよ。」と伺いました。 ネタが無いのでとりあえず、載せてみました。
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